【食の都庄内シリーズ】温海かぶがあなたに届くまで

2022.02.10

「庄内地方」は四方を海と山に囲まれ、米、野菜、果物、地魚、肉類等の「おいしい食材」の宝庫です。
これら豊富な食材から生まれた郷土料理や地酒があり、そして多彩な料理を提供する料理人たちと、それらを楽しむ人々がここ庄内にいます。
「美食」と「美酒」を同時に堪能することができる食の理想郷こそが「食の都庄内」なのです。

庄内を代表する食材のひとつである「温海かぶ」は鶴岡市温海(あつみ)地域で栽培される在来野菜です。
きめ細かくパリッとした歯触りが特徴で、温海かぶの甘酢漬けは、地域内外に広く人気があります。
長い歴史をもつ温海かぶの栽培の様子や生産者の想いについて、シリーズでお伝えしていきます。

※「食の都庄内」のSNSで連載されていた「あなたに届くまで」シリーズを再編集のうえ掲載させていただいております。

「温海かぶ」とは

「温海かぶ」は鶴岡市の山間部、一霞地区(旧・温海町一霞)を中心に、昔ながらの伝統的な焼畑農法によって栽培されている在来野菜です。
西洋かぶの一種で、400年近い栽培の歴史を持っています。集落では古くから温海かぶの種の純度を保つため、温海かぶ以外のアブラナ属植物を植えないという決まりごとを長い間守り続けてきました。こうして自家採取された種を蒔く準備が始まるのは、7月に入ってから。伐採跡地など山の急斜面の下草を刈り取り、刈った草や木が充分乾燥するのを待って8月の旧盆あたりを目安に、炎天下のもと焼畑が行われます。

焼畑編

温海かぶは、伝統的に、杉の伐採跡地を焼いた場所に種をまく「焼畑農法」で栽培されてきました。
焼畑農法により、病害虫や雑草が抑えられ、残った灰は天然の肥料となって、農薬や化学肥料を使わずに、かぶを生産できるようになります。
2021年9月3日、温海町森林組合が行った焼畑の様子を取材させていただきました。

焼畑を行うのは、今年、杉の伐採を行った山の斜面。下準備として、火をつけるための杉の枝葉が敷き広げられています。
火入れは、斜面の上の方から、徐々に下に降りるように行っていきます。下から火を入れると、どんどん上に燃え広がり、周囲の山林に延焼するおそれがあるからです。
天候の関係で例年より少し遅い9月とはいえ、炎天下の過酷な作業です。およそ1ヘクタールの伐採跡地が焼かれました。

この場所でかぶを収穫した後には、杉の植栽が行われます。
温海町森林組合では、栽培したかぶの収益を再造林に活用しており、「焼畑あつみかぶ」の栽培が、森林の循環につながっています。

種まき編

種まきが行われたのは、焼畑から4日後。
火が収まった数時間後に種をまくやり方もありますが、温海町森林組合では、焼え残った木の枝などを取り除いたり、発芽の支障になるほど灰が厚くなったところを掻き広げるなどの下準備を行ってから種をまきます。

種まきは、背中に担いだ動力噴霧器を使って行われました。
直径1ミリほどの、ゴマ粒のように小さい温海かぶの種を、その10倍の量の川砂と混ぜ合わせ、風に散らすように噴霧していきます。
手で種をまくと、一部分にたくさんの芽が出たり、まき方にムラが生じやすいですが、このやり方だとちょうどいい密度で、均等に種をまくことができるそうです。

画像では少し見えにくいですが、動力噴霧器の黒いホースの先からは、パラパラと砂と混ぜ合わせた種が飛んでいます。
種をまいてから、早いものでは3日ほどで、かわいい芽が出てくるそうです。
斜面が緑に覆われる様子が、今から楽しみです。

発芽編

種まきが行われたのが9月上旬。
10日ほど経つと、だいたい芽が出てきました。黒く焼かれた土の上に、みずみずしい双葉がぽつぽつと発芽している様子はとてもかわいらしいです。

それから、さらに10日ほどして、かわいらしかった芽には、数枚の本葉も育ち、だいぶ頼もしい印象になりました。

種を播いた一帯に緑が広がり、温海かぶのたくましさを感じます。
この栽培地での収穫は、10月下旬頃からの見込み。これからの成長が楽しみです。

後継者育成編

今回は、温海かぶ生産者の後継者育成事業についてご紹介します。
温海かぶの生産者は約100人ほどいますが、生産者の高齢化が進み、その数は減少傾向にあります。

生産者や鶴岡市などで組織される「焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会」では、後継者の育成や、伝統農法である焼畑文化の継承のため、希望する住民グループに生産から加工まで一貫して指導・サポートする「焼畑あつみかぶ栽培チャレンジサポート事業」を2020年度(令和2年度)から開始しました。

この事業に手を挙げたグループのひとつが、あつみ温泉の老舗旅館「萬国屋」社員のグループ「赤かぶ部」です。
初めての温海かぶ栽培だったものの、ベテラン生産者からの指導や助言もあって、初年度から多くの温海かぶを収穫。
収穫したかぶは、赤かぶ部で漬けて旅館で年末年越し蕎麦に添えてお客様にお出しした他、旅館を訪れるツアーバスのバスガイドさんに、漬け物のレシピを添えて生のかぶを提供。自分で温海かぶを漬ける体験をしてもらうことで、バスガイドさんのトークのネタになり、実体験に基づく話は、温海に訪れたお客様へ温海かぶのPRにもつながりました。
2枚目の写真は、宿泊客のチェックアウト時に、館内でマルシェを開催してかぶを販売されているところです。

今後は、体験学習を目的とした修学旅行生や、宿泊客に収穫体験をしてもらう構想もあるそうで、新たな観光資源としても期待されます。
次は、また温海町森林組合のほ場の収穫間近の作業の様子をお伝えします。

間引き編

温海町森林組合の栽培地で、作業の様子を取材させていただきました。
栽培地は、一面緑!温海かぶが、所せましと生い茂っています。
今回の作業は、「間引き」と「草取り」。

「間引き」は、かぶを大きく育てるために行うもので、かぶとかぶとの間隔がこぶし1個程度になるよう、間引いていきます。
また、伝統的な焼畑栽培を行っているこの栽培地では除草剤を使っていないため、雑草の「草取り」も併せて行います。
広い栽培地なので、大変な作業量です。

温海町森林組合の栽培地の「間引き菜」の一部は、小学校の給食として使われました。
温海地域の給食を作っている「あつみっこ給食センター」では、地域の食材をふんだんに使った献立がたくさんあり、子供たちの食育にも力を入れています。
メニュー名は、「あつみかぶ間引き菜の手作りふりかけ」。写真は、あつみ小学校の1~3年生の児童たち。皆さんおいしそうに食べていました。
私も、生産者から「間引き菜」を分けてもらっていただきましたが、葉が柔らかでおいしかったです。
次回は、いよいよ収穫の様子をお伝えします。

収穫編

温海町森林組合の栽培地で、作業の様子を取材させていただきました。

今回の作業は、いよいよ収穫。早いところでは10月上旬から収穫が始まっており、この栽培地でも10月末頃から収穫が始まりました。

私が取材に行ったのは、11月末でしたが、広い栽培地にかぶがまだまだたくさん残っていました。

収穫作業は、採り頃の大きさに育っているものを選びながら行います。

急傾斜の中、重たいかぶを背負っての作業。付いて回るだけでも息切れしてしまいました。
お話を伺うと、雨の日はさらに大変とのこと。斜面はドロドロになり、杉の切り株の根っこはすべって危ないそうです。
収穫は雪が積もるまで続けられます。

再造林編

今回がシリーズの最後。温海町森林組合の栽培地で、杉の植栽の様子を取材させていただきました。(取材は12月下旬に行ったものです)

伝統的な焼畑農法で栽培している温海町森林組合では、その年にかぶの栽培を行ったほ場には、杉を植栽して再造林を行います。伝統的な焼畑農法では、杉の枝葉や刈り払った草などを焼いて肥料とするため、同じほ場で連続して栽培することはありません。次にこの場所で焼畑をして、かぶを栽培するのは、杉の苗木が成長して木材として切り出される50年後。その壮大な時間を思うと、感慨深いものがあります。

杉の植栽は、「ディブル」と呼ばれる棒を使ってあけた穴に、コンテナ容器で育苗された杉の苗を差し込んでいきます。およそ2メートル間隔で植えていき、1ヘクタール近いこのほ場では、2千本以上の苗が植えられました。植えられた杉の苗は、ほとんど花粉を作らない種類の少花粉スギだそうです。
このほ場で生産されたかぶの売上げの一部は、植栽される苗木の費用やその後の保育作業(下草刈りや間伐)に充てられます。
伐採 ⇒ 焼畑 ⇒ 再造林 のサイクルで作られる焼畑温海かぶが、森林の若返りにひと役買っていると思うと、かぶ漬けも一段味わい深く感じられるような気がします。

この温海町森林組合が栽培したかぶで作ったかぶ漬けは、2月上旬から販売が開始されました。お問い合わせは温海町森林組合まで(数量限定です)【TEL 0235-43-2313】。
肉質が緻密(ちみつ)で、パリッとした歯ごたえがたまらない温海かぶ。庄内の冬には欠かせません。県外の方にもぜひ味わっていただきたい逸品です。