庄内の暮らしの知恵と食文化が根付く場所|知憩軒

2021.02.05

庄内の農家民宿レストランの先駆けとして全国から多くの人が訪れる知憩軒。ここは多様な食文化が根付く鶴岡の中で脈々と受け継がれる暮らしを大事にしながら、自宅の畑で採れた新鮮な野菜を提供している農家民宿レストランです。店主の長南光さんにお話を伺ってきました。

山形県鶴岡市にも雪が降りはじめた12月中旬頃、取材に伺いました。知憩軒は果樹栽培が盛んなことで知られる鶴岡市櫛引西荒屋地域の一角にあります。

お店の中に入ると、テーブル、お座敷の他にカウンター席があり、子どもたちがつくったワロック人形や陶芸家の方の作品なども展示されています。木でつくられた店内の1つ1つは人の手によって作られたことを感じ取ることができ、ほっとできる空間です。

現代では、機械で作られたものはたくさんあるけど、器や絵画のように、人の手によって作られた心の通っているものだからこそ感じられるあたたかさがあります。そんな芸術作品や工芸作品が知憩軒にはあります。

「ここにいるときは本能で過ごしてほしいんです。だから時計もテレビもラジオもおいてません。そうしたものに普段から触れているから、ここにいるときくらい見ないでもいいじゃないですかね。」

都心の人が求める田舎暮らしを無理して農業体験などの体験に落とし込まなくても、仕事や日常に疲れた人がこうした場所を求めて来るのだから、自然体でくつろいでこの地域の暮らしを感じて欲しいとあたたかく見守る光さん。

「まずほしがきでも食べて・・・」と差し出されたこちら。

3人兄弟の農家の末っ子として生まれ育った光さん。この干し柿の原料となる柿も光さんの畑で採れたもの。知憩軒は、自分の畑で採れた野菜を消費するために、今できることをはじめようと光さんがご自宅を改修して1999年にオープンしました。

「中に柚子が入っているから干し柿苦手な人も食べれるんですよ。二次加工してます。」

干し柿の中に柚子を入れることでひと手間加えるのも光さんのアレンジ。私自身、干し柿をあまり好んで食べる機会はなかったのですが、柚子を加えるひと手間でさらにおいしく苦手でも食べられました。そのうえ、ここ知憩軒でストーブに温まりながら、光さんに入れてもらったお茶を飲み、お茶請けとして食べる干し柿は渋みがなく、甘さがありおいしく感じられました。

鶴岡の地域に根付いた食材を使った一汁三菜と保存食

取材に伺った12月から2月までは冬季休業期間のため、実際の食事をいただくことは叶いませんでしたが、いつも提供しているメニューを教えていただきました。

一汁三菜と保存食。こちらが知憩軒で提供されているご飯です。

「特別なことは何もしてなくて、これまで私が食べてきた郷土料理を来た人にも食べてもらっているの。」

食材は自分の畑で採れるものでも、料理をする上で仕込みは普通の人の2倍の時間を掛けて人一倍こだわっているのだそう。

地元A-COOPから仕入れた身欠き(みがき)ニシンとジャガイモの煮つけ、高野豆腐のしめじと昆布のしみ炊き合わせ、切り干し大根は定番メニューです。

身欠き(みがき)ニシンとは、生の状態では日持ちしないニシンを干物に加工したもので、いつでも食べられるように用意しているそうです。ニシンは今ではスーパーで買い求められる食材ですが、漁獲高も減少して、高級品となりつつあります。

こうした保存食は、なかなか買い出しに行きづらい雪国の冬場のおかずとして地域の暮らしに根付いているもの。1人でお店の切り盛りをしているため、そのときどきの畑で採れた新鮮な野菜とこうした保存食で料理を提供しているのも光さんの暮らしの知恵。

野菜はそのときそのときの旬のものをメニューとして出していて、この冬の季節だと、大根、にんじん、じゃがいも、カラトリ芋、越冬野菜や根菜類などが旬です。

こうした食材は全て無農薬で作っているので、誰でも安心して食べられるもの。醤油などの調味料も無添加のものを使っており、赤ちゃんが来ても食べられるし、アトピーの方でも食べられ、子育て中のお母さん方にも喜ばれているのだそうです。

こうしたその土地の郷土料理を食べられる、いわゆる田舎暮らしを味わえる店というのは、観光客の方にも嬉しいもの。次こそはぜひ食べてみたいと思いました。

自然とともに生活がある

「雪は降る年は降りますが、春になったら溶けない雪はないですし、こうした日本の四季を感じられるのが雪国のよさです。最近は雪も降らなかったり、少ない年も続いてましたが、ちゃんと雪が降ることでおいしいお米ができるんですよね。」

日本有数の米どころ庄内地方。なんといってもお米がうまい。雪の寒い時期を耐えお米を引き立てる副菜として、ご飯に添えているシソの実。このシソの実は地元のスーパーなどでもあまり手に入らなく、こうしたものを食べてもらいたいと一年分を仕込んでいるのだとか。

「そのとき来たお客様に合わせて、器も選んでます。
身近に手に入る自分家の畑から採れた野菜ですが、料理には2倍の時間を掛けてます。だって、たくさんお店のある中で知憩軒を選んで来てくれたわけでしょ。おいしいよりあったかいって感じて欲しいから。」

ただ料理を提供するのではなく、体温を感じられるものやことを通じて、お客様が満足する空間を提供すること。これが農家民宿レストランに求められているものではないでしょうか。

暮らしの一部の家庭料理

「親の介護があったから、出稼ぎくらいしかあまり外に行ったことがなくてね、、、。」

20代の頃から子育てに加えて、親の介護などで忙しく、なかなか地域の外に出かけることができなかった光さんが、外に出れないのであればお客さんに来てもらって見聞きしたことを広めてもらおうという発想ではじまった知憩軒。

「この知憩軒も農業の複合経営だから暮らしの一部です。家業である農業は家族が末永く生きるための生活の軸となるもので、知憩軒の仕入れ先でもあり、レストランは自分の畑の中でそのとき旬なものを提供してます。今はスーパーとかで買い物しても、地元産の野菜ではなく、県外の野菜を取り扱うことが多くなり、全国共通の家庭料理になってしまいました。だから、ここ知憩軒ではここで育ててきた野菜を使って、私が昔から食べてきた郷土料理を食べてもらってます。」

当たり前の家庭料理を食べられる暮らしの延長線上にこの知憩軒がある。

「グリーンツーリズムって、よく体験を求められたりするけど、そもそもここに来てまで働かなくてもいいんじゃないかって思っていて、、、。お腹が空けば腹時計が教えてくれるし、疲れたらゴロっとすればよいし、この空間、この時間を感じ取ってもらえればいいんじゃないかなって。」

目で感じる、耳で感じるー。その人その人が五感で感じ取ったものを大事にすればいい。それが知憩軒のおもてなし。

カメラを向けると、笑顔が最高に素敵な光さん。

「とってもいい笑顔ですね。」と話すと、「だって怒っている顏じゃ悪いじゃない。笑顔は
最高のおもてなし。料理より大事だよ。」と教えてくれました。

守っていきたいこの地の暮らし

外から人が尋ねてきてくれることで、地元に残る文化のあたり前のよさに気づくと、この暮らしを守っていきたいという気持ちになる。そんな経験を光さんが話してくれました。

「作家の藤沢周平が好きなことがきっかけで知憩軒に来てくれた人がいました。その方は私のお店のことを心配してくれて、朝まで話し込んだことがあったのです。家族を連れてきてくれたりして気に入って何度も鶴岡にも来てくれるうちに、鶴岡のことを好きになってくれて、、、こうした人が来てくれているってのは財産だなって思ってます。

民泊を続けていると、時として想像できないような付き合いになる方が来てくださることがある。そんな人が来てくれたときに、自分も知識を豊かにしておくことで、そうした方たちと話したりしながら、精神的に暮らしが豊かになります。

そうして知り合った方が人生を懸けて作られた工芸品や芸術作品をお店に置いて置くことで、その人の生き方を感じることができ、心を打たれるし、向こうからも心を打たれるような人になることで、お客様を迎えないといけないなと思います。

よそから人が来てくれることで、地域になかった情報や、その人の生き方も入ってきます。それにより、なんでもないと思っていた故郷の食べ物がおいしい、自然が美しいと気付かされます。外から来た人に言われると、守らないとってなるじゃない。当たり前に暮らしてきた地域の大事さに気づけるのが農家民宿をやっていてよいことかなって思います。」

ここに来て光さんと話をしてゆっくりと過ごしているだけで、田舎の暮らしを感じられる知憩軒。都会の暮らしに少し疲れたら、足を踏み入れてみては。この地域の暮らしが根付いている場所です。

施設紹介

知憩軒(ちけいけん)
代表者名:長南 光
住所:山形県鶴岡市西荒屋字宮の根91
駐車場:10台
電話:0235-57-2130
FAX:0235-57-4185
営業時間
農家レストラン 11:30~14:00(L.O13:30)
宿泊チェックイン 15:00~ チェックアウト 10:00
定休日:火・水曜、12月~2月

※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

<ライター紹介>

ライター:伊藤秀和
神奈川横浜市出身。2018年5月に三川町地域おこし協力隊として妻と2人の子どもと一緒に庄内地方に移住。WEBライターとして活動。ローカルメディア「家族4人、山形暮らしはじめました。」運営。庄内弁猛勉強中。

【作成記事】
江戸時代から伝わる在来品種「平田の赤ねぎ」を未来へ紡ぐ|ひらた農産物直売所・めんたま畑