江戸時代から伝わる在来品種「平田の赤ねぎ」を未来へ紡ぐ
ひらた農産物直売所・めんたま畑

2020.12.15

グリーンツーリズムとは、農村や漁村に滞在し農漁業体験を楽しみ、人と人の交流を図る余暇活動のこと。 

農家さんの採れたて野菜を提供する産直は、地元住民の生活のための農産物の販売所というだけではなく、外から人がその土地のものを知り、地元の人とふれあう機会を提供しています。こうした農産物直売所いわゆる「産直」は地域に賑わいをもたらしています。
そんな産直がここ山形県庄内地域にもあります。

産直というと、若い人にとってはあまり馴染みのない場所だったりするのではないでしょうか。本日はひらた農産物直売所・めんたま畑をご紹介させて頂きます。

人の横顏の形をしている山形県。
その目玉の場所に位置する酒田市平田地区にある産直は「めんたま畑」

「おはようございまーす!」

と挨拶をして中へ入ると、その日、朝一に収穫した採れたて野菜をお客様に届けようと開店準備をしているお父さんお母さんの中にこの産直の立ち上げメンバーである組合長の高橋栄子さんの姿が。

高橋さん「おはようございます。本日はよろしく御願いします。」

地域の住民の声で決まった「めんたま畑」

2000年にオープンした産直施設・めんたま畑。その当時はまだ「平田の赤ねぎ」も在来種認定されていなかった頃です。

高橋さんは地元酒田市平田のご出身で、立ち上げから4代目のこの産直の代表です。庄内には「産直あぐり」や、「農産物直売所 ひまわりの会(道の駅 鳥海 ふらっと)」など産直施設ができる中で、ここ平田にも産直施設ができたらという住民の期待が高まっていました。そこで農協と行政が住民の方と手を取りながら、平田中央公民館の跡地に建てられたのがこちらの産直。ちなみに「めんたま畑」という名称も平田に住む住民からの公募で決まったのだそう。

今年度の会員は43名。農業というと、「後継者不足」や「高齢化」が深刻化していますが、ここめんたま畑でも同じように頭を悩ませています。

「おはよう」の挨拶からはじまるコミュニケーション

「8時から産直の開店準備がはじまりますが、朝一のおはようの挨拶から仕事がはじまります。」

地域の集落とは違ったコミュニティとして、毎朝顏を合わせて挨拶をしたり、「今日は良い葉ものが獲れた」とか、「そろそろ芋煮の季節だね」とか、その日獲れた旬な野菜を陳列しながら、他愛もない会話をしていく中で元気をもらう。ここ産直は組合員の生きがいともなっているのだそう。

「地域では「〇〇(屋号)のかあちゃん」と呼ばれることが多いですが、ここでは組合員同士名前で呼び合い1つの産直施設を運営していくので、深く密な付き合いです。」

こうした会話の中で、組合員同士が農産物についての相談をしたりすることで、勉強にもなっているのだと高橋さんは語ります。

地域の子どもたちへの食育と地域への賑わい

組合員としての活動内容は野菜を売ることだけではなく、
地域貢献活動として、5月の「周年祭」、お盆の「ふれあい市」、年末の「歳の市」という催しものを開催し、多くの方から好評を得ています。
平田地域に賑わいをつくりだす「めんたま畑」はこの地域になくてはならない存在なのです。

その他にも、小・中学校の子どもたちの給食に旬の地元野菜を提供することでその味を次世代に伝えていくような活動を行っております。また、産直から100メートルほど離れた場所にある平田保育園では、園児たちが産直に買い物に来る「買い物体験」を行っているのです。

この時期は赤ねぎ、シソ巻き、笹巻き、キャベツ、大根、長ねぎ、庄内柿などが旬とのことでした。

平田といえば「平田の赤ねぎ」

平田といえば在来野菜である「平田の赤ねぎ」。そのワインレッドに染まったねぎの足元が特徴的なこの赤ねぎは、白ねぎと比べ辛みがあるが火を通すことで甘みが広がることで知られています。

江戸末期に北前船を利用している上方の商人の船乗りが地元の人から水をもらったお礼にと置いていった種子から栽培が始まり、それ以来ずっと地域の人たちが大切にしてきた野菜とも言われているのです。

庄内地方でもこうした自家採取された在来作物を研究していく「山形在来作物研究会」が2003年に発足し、同研究会の発行雑誌である「SEED」に在来作物としてリストアップされたのが2004年。

こうして地域の方に大事にされてきた「平田の赤ねぎ」は対外的にも認知されるようになってきました。

「平田の赤ねぎ」は、秋の味覚としてまずめんたま畑に来たら手にしたい一品ではありますが、この赤ねぎを育てるのにも様々な苦労がありました。

「産直がオープンする以前は、お盆が過ぎる頃に種を撒いて翌年の秋に収穫という1年半のサイクルで収穫を行っていました。」

この産直の目玉商品にしていきたい。そんな思いから、山形県の普及課の方と二人三脚で改良を進めていき、今では白ねぎと同じような周期で3月に種を撒き、田植え前の頃に定植し、10月上旬頃から収穫ができるようになりました。

今では当たり前のように「平田の赤ねぎ」ねぎとしてめんたま畑に並んでいますが、赤ねぎとして育てていても、あまり赤く色づかなかったり、中には白ねぎになってしまったり。。。そんな苦労もあって、選別された赤ねぎが産直に並んでいるのです。

また、加工品として平田の赤ねぎを使用した「赤ねぎ味噌」を販売しています。春には「ばんけ味噌」もあります。昔なつかしい味を豊富に取り揃えております。

産直ではこの地域を盛り上げていこうとめんたま畑のキャラクターグッズも販売しています。
めんたま畑の名前になぞらえて、めんたま「アイちゃん」と平田の赤ねぎの「赤ねぎくん」。・・・か、かわいい。。。

ひらた農産物直売所「めんたま畑」への思い

「安心・安全・新鮮の顔の見える産直。それがめんたま畑です。スーパーでは出回らないような、この土地ならではの農産物が並んでいたり、地元の農家さんとおしゃべりをしながら、その食材のことを知りながら買い物が楽しめる場所です。」

スーパーは無駄話せず商品を買う場所だけど、産直はコミュニケーションが大事な場所。

「この野菜はいつ頃できるのか?」「調理法はどうすればよい?」などの情報収集をしたり、他愛もない話をしたい方も立ち寄りに来て頂けたら嬉しいと高橋さんは語ります。

このめんたま畑ができたことで、近年では北海道や、東京・神奈川などの首都圏、九州からもお問い合わせ頂き、「平田の赤ねぎ」を送ることも増えてきており、平田地域出身者が昔を懐かしんで野菜のご注文を頂いたり、産直としても広がりが出ているのだとか。

「若い人は一箇所で買える場所を好んで、なかなか産直に足を運ぶ機会が少なくなっております。それでも、産直はスーパーとは違った楽しみ方があると思います。ずっとなくならずに残ってほしい。そして農家としても、この「平田の赤ねぎ」を絶やさずに次世代に残していきたいと思います。」

「顏の見える産直」といわれるように、「〇〇さんの赤ネギ」農家さんの名が連なる棚の中で、どの赤ねぎが良いか伺うと、「(高橋)栄子さんのとこのねぎの色づきがいいよ」とのご評判。このねぎに対する並々ならぬ思いがねぎにも伝わっているようです。

「平田の赤ねぎ」の種は、自家採取で人から人の手に脈々と受け継がれてきた大切なもの。今後も守っていきたいと高橋さんは語ります。

《番外編》大手スーパーにはない産直ならではの品々

これまで高橋さんに「平田の赤ねぎ」やめんたま畑についてご紹介させて頂きましたが、店内にはまだまだ押さえておきたいめんたま畑に並ぶ品々。こちらについてご紹介させて頂きます。

目を見張るような大きさが特徴的な「ズイキ芋」。茎と芋とそれぞれの用途で食べられるのです。

ズイキ芋の茎を乾燥させた「わりな」。正月のお雑煮や納豆汁などに入れたりして使うものです。戦国時代から保存食として食されていました。

食用菊「もってのほか」。そのネーミングからはなんのことかと思う方もいらしゃると思いますが「天皇家の御紋を食べるとはもってのほか」、「もってのほかおいしい」といったことから由来したのだそうです。

一時、全国的にも話題になった黒ニンニク。白ニンニクを収穫後にひと手間かけて、熟成加工することで、見た目もインパクトある黒ニンニクに。白ニンニクのような臭みがなく、糖度が増し甘味が増えるため、より食べやすいです。

「川ガニ」。通称「ガニ」触れると動き出す・・・この状態で実は生きているんです。

できたてほやほやの小松原トク子さんの「弁慶飯(焼きおにぎり)」。

「みえ母ちゃん」・・・!?

食卓に一品付け加えられる惣菜として美味しいと言われる小松原トク子さんの青菜漬け

組合員によるお餅コーナーにある塩あずき餅はとても珍しい一品です。「塩入り」と「塩なし」が見分けづらいとのことで、〇がついているのが「塩入り」。草餅、あんこ餅もお客様のリピーターが多いのだそうです。

地元産のそば粉もあります。

めんたまは畑手作りのしょうゆの実は地域の方にも大好評で一年を通してお取り扱いしております。原材料のしょうゆの実糀は3月上旬より入荷し、10月下旬で販売終了となります。

高橋さんも子どもの頃アツアツのご飯の上にバターとこちらのしょうゆの実で食べたりしたのだそうです。他にも、焼きナスと混ぜてもとおいしいとか、春はばんけ味噌と絡めても大人の味でまたいいとか・・・その熟練の豊富な手数。次から次へと尽きません。

・・・ということで、取材後にさっそくご飯の上にバター醤油をかけて頂きました(笑)

これが高橋さんに教えて頂いた、バター醤油の実ご飯をさらに進化させた、「バターしょうゆの実卵かけご飯」!!んん~~~、うめっけ♪

高橋さん「これからはお正月用の山菜の塩蔵も12月に入ると店頭に並びます。ぜひお立ちよりください。」

(※取材日2020年11月上旬)

施設紹介

ひらた農産物直売所経営組合 めんたま畑
代表者名:高橋 栄子
住所:酒田市飛鳥字堂之後83-3(平田総合支所向かい)
駐車場:24台収容
電話:0234-61-7200
FAX:0234-61-7295
営業時間:9:30~17:30 ※冬期間(12月~2月)17:00まで
(※当面の間はコロナウイルス感染拡大防止のため、16:00までの営業。)
定休日:毎週火曜日、12月31日から1月5日
※臨時変更となる場合があります。詳しくは、直売所の問い合わせ先へご確認ください。
※今回取材させて頂いた野菜や加工品は、季節によって無いものがある場合もあります。

<ライター紹介>

ライター:伊藤秀和
神奈川横浜市出身。2018年5月に三川町地域おこし協力隊として妻と2人の子どもと一緒に庄内地方に移住。WEBライターとして活動。ローカルメディア「家族4人、山形暮らしはじめました。」運営。庄内弁猛勉強中。

【作成記事】
庄内の暮らしの知恵と食文化が根付く場所|知憩軒
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