庄内の恵みを丸ごとペロリ!完全予約制の「体験型農家レストラン『小田原』」

2020.11.16

近年にわかに注目されている「グリーンツーリズム」。
グリーンツーリズムとは、農山漁村を訪問し、現地の人々と交流を図りながら農漁業体験を楽しむ余暇形態のこと。既に日本各地で様々な取り組みが行われていますが、自然豊かなここ庄内エリアも、グリーンツーリズムに力を入れている地域のひとつ。
今回は、庄内地方北部の遊佐町にある「体験型農家レストラン『小田原』」にお邪魔してきました!

「体験型農家レストラン『小田原』」とは

庄内エリアで最も北に位置する遊佐町。「出羽富士」とも呼ばれる鳥海山のお膝元にあり、山からの湧水が豊富に流れる自然豊かな場所。そんな遊佐町に「体験型農家レストラン『小田原』」はあります。

農業体験や、自家製野菜やお米を使った料理教室といった体験を通じ、農家の暮らしや郷土料理を紹介するというのが『小田原』のコンセプト。
「レストラン」と銘打っているものの店舗を構えているわけではなく、代表の小田原裕さんが住む古民家がその場所です。

目印は「小田原長右エ門」の表札。初めての訪問だったため車を停める場所に迷いましたが、門柱を超えて敷地内に駐車して良いとのことでした。『小田原』の前庭は数台の車を停められそうなほど広いので、複数台で来ても安心です。

『小田原』は完全予約制。1日1組限定で一度に2~10人の受け入れが可能です。
そして、ランチとディナーどちらも対応しており、ランチは1,000円~、ディナーは2,000円~といったリーズナブルな価格で、ディナーの際はアルコール類の持ち込みもOKだそう。

そして肝心のメニューはというと、決まったものはありません。
というのも、内容は小田原さんの家にその日あるものや、できそうなものをお客様ごとに考えるため。
そうなると、今日のメニューがとても気になるところですが……

テーブルの上には、なにやら色とりどりのおかず、そしてホットプレートが。何が作られるのかと思っていたところ、今日のメインは「ホットプレートで作る石焼ビビンバ」だということが判明しました。

ということは、テーブルの上に並べられているのは石焼ビビンバに入れるナムルであるわけですが、材料の春菊、ニンジン、紫大根は、ついさっき小田原さんが自宅の畑で収穫してきたもの。
そして一升炊きの炊飯器の中に入っているお米も、自分の家で育てたものだそう。

テーブルの上に乗っている食材ほぼ全てが生まれたのはどんな場所なのか気になってしまい、ランチの前に小田原家の畑を案内していただくことにしました。

鳥海山の裾が端から端まで見えるロケーション!の、はずが……

庭に出てすぐ、「あそこに●●がある、こっちは●●」と、次々案内を始める小田原さん。
ご自宅も相当な大きさでしたが、それだけでなく、敷地内には土蔵や倉庫、ビニールハウスまであります。

そして圧巻なのは、畑の間から鳥海山の裾が端から端まで真正面に見えるというロケーション!
……のはずだったのですが、この日はあいにくの土砂降り。残念ながら、鳥海山の影も形も見えませんでした。

小田原家を探検!見たことがないものに驚きの連続

巨大な倉庫に足を踏み入れると、見た事のない大きな機械がありました。これは米の乾燥機とのこと。米農家を生業にしている小田原家には欠かせない仕事道具です。

そしてすぐ足元には、庄内の冬の味覚「納豆汁」に欠かせないずいき芋の茎と、大きな芋が。

「今年はうまいこと育ってくれて、例年より大きな芋になってくれた」と言う小田原さん。
その言葉の通り、小田原さんの顔と同じくらいの立派なサイズです。

続いて移動したのはハウス。
入った瞬間、思わず「すごーい」と歓声を上げてしまいました。

現在は、1月から3月くらいまでに食べる野菜を作っているとのこと。
そのラインナップは、ブロッコリー、白菜、キャベツ、サンチュ、紫大根に緑大根、白大根、紅芯大根、春菊、赤かぶ、ほうれん草、ちぢみ菜など……たくさんの野菜が所狭しと栽培されています。

しかも、3月を過ぎると一度全部耕して育苗用の箱を並べ、田植えの時期が終わる5月頃に再度全て耕し、今度はトマトやなす、きゅうりなどの夏野菜を植えるんだそう。

しかしこれらは全て自宅用。出荷用の野菜は形を揃える必要があるため、例えば大根ひとつ作るにしても広大な畑がいるうえ、見た目に難があるものは廃棄しなければならず、「忙しいのでそこまでできないし、もったいない」。そんな理由から、小田原さんの家で出荷用に作っているのはお米だけだそうです。

そろそろお腹が空いてきたところで、小田原家の探検タイムは終了です。

母屋に戻る道すがら、雨の中で赤く色づいた葉っぱが目に留まりました。
小田原さんによると、これはブルーベリーの木。
ブルーベリーの葉が秋には赤くなるなんて全然知りませんでした。

いよいよ昼食!気になる本日のメニューの全貌は?

この日のメニューのメインは、もちろん「ホットプレートで作る石焼ビビンバ」。
その他にも、菊のお浸し、ずいき芋の煮物、芋煮、白菜漬けなど、小田原さんの家でとれた完全無農薬の手作り野菜がふんだんに使われた、シンプルながら贅沢なメニュー。

特に、お浸しに使われた菊は、キッチンダイニングの窓から見える場所に咲いていました。
それを朝のうちにとってきて調理したというのだから、これ以上ないほどの新鮮さです。

そして、気になる「ホットプレートで作る石焼ビビンバ」の準備が始まりました。
まずはお米から。この日は「はえぬき」の新米とのこと。ふわっと甘い香りに、食欲がそそられます。

少しならされたお米の上に、自家製ナムルや牛肉、卵が次々とのせられていきます。

この材料が何か、この後何をどうするかなどの作り方を間近で見られたり、その場で調理の疑問を聞くことができたりするのが体験型レストランの良いところ。
調理場で作られて運ばれてくる通常のレストランでは、こうはいかないですよね。

その後、キムチ、チーズ、明太子を加えて豪快に混ぜ、香ばしい匂いが漂ってくれば、石焼ビビンバの完成です。

「石焼ビビンバ」といえば専用の器がないとできないものだと思っていましたが、ホットプレートで作ることができるなんて目からうろこでした。
もちろん、「石焼ビビンバ」の醍醐味であるおこげもちゃんとできますよ。

作りたての石焼ビビンバに舌つづみをうっている間、小田原さんが他の料理を色々と準備してくださいました。

まずは先程倉庫で見たずいき芋の煮物。さつま揚げの間から覗く、ごろっと大きなお芋が印象的です。

そして、山形の秋の味覚の定番である「芋煮」は、もちろん庄内風の味噌味。
雨で冷えた体に染みわたります。

箸休めには小田原さんの畑でとれた白菜の漬物が。あまりにも美味しくてレシピを教えて頂きました。

先ほど見学したハウスの中にはみかんの木もあったのですが、この漬物では柚子の代わりにみかんが使われています。
市販のものより酸味があるため、小田原さんの家ではこのみかんをポン酢にも絞り入れるそう。どんな味かとても気になります。

最後には、これまた小田原さん自家製のデザートが。

自家製のカスピ海ヨーグルトに、赤いシャーベットがのっています。
これは、ワインで煮たブルーベリー、甘酢漬けのビーツ、いちじく、桃、苺にぶどうジュースを加えて攪拌して冷やし固めたもの。
崩してヨーグルトと混ぜ合わせて食べると、甘酸っぱくさっぱりとしたアイスクリームのようになりました。
小田原さんのお孫さんも大好きな味だそうです。

「体験型農家レストラン『小田原』」に込める思い

遊佐生まれ遊佐育ちで大学進学以外はずっとこの地で過ごし、現在は米農家の傍ら「体験型農家レストラン『小田原』」を運営している小田原さん。
しかし、料理に関わる仕事をしていたわけではなく、元々は小学校の臨時教員だったそうです。

農家を継いだものの、お米だけで食べていくのは今後厳しいかもしれないと思っていた頃から、「レストランでもやろうかな」と漠然と考え始めました。
その背中を押したのが、「鳥海山の裾が端から端まで見えるなんて絶景はここだけだ」という友人の言葉。
そして、レストラン形式であれば、自宅の畑でとれた形の整わない野菜も使うことができると思い至り、『小田原』が誕生しました。

「とはいえ、農家が本業でそっちが忙しいから、毎日レストランをやると大変。だから完全予約制にしているの」。
そう言いながら小田原さんは悪戯っぽく笑いました。

通年で予約を受け付けている『小田原』ですが、他の季節にはどんなものがあるのか聞いてみたところ、春はほうれん草のしゃぶしゃぶやキッシュ、野菜をどっさり入れたチーズダッカルビ、夏には夏野菜のスープカレーや天ぷらといった、旬の素材をたっぷり食べられるメニューがあるとのこと。
その日の状況によってメニューが変わるのですから、何度訪れても楽しむことができますよね。

農家の暮らしと伝統料理を伝え、人と人が交流できる場所にしたい

毎朝、鳥海山を眺めながらコーヒーを飲む。畑仕事でお腹が空いたら、熟れきった柿や桃をその場で食べ、ベタベタになった手は近くの溜め水で洗って仕事に戻る。
これらのことを何気なくしていた時、「何て幸せなんだろう」と思ったそうです。

若い時は都会に憧れたこともあったものの、農家の跡取り娘として家業を継ぎ、子どもたちも手を離れたここ最近では、遊佐での生活に言葉にできないほどの豊かさを感じているのだとか。

本業の米農家、そしてレストラン運営に加え、地域の婦人会会長、子供合唱団の指導、山形県指導農業士など、大きな手帳の予定欄が真っ黒になるほど忙しい日々を送っている小田原さん。
それにもかかわらず、「いつでも猛突進してないと生きていけないタイプだから」と言います。取材に伺った日も、直後に行政関連のお仕事の予定が入っていました。

日々フル回転で活動をしている小田原さんに、最後に「これから『小田原』でやりたいこと」を伺いました。

「既に関わっているけれど、食育や伝統料理ですね。例えば、地元のおじいちゃんおばあちゃんを先生に呼んで料理教室をしたり。『田舎の暮らしっていいな』、『農業は大変なことだけじゃないんだな』ということを広められたらと思います。体験型のレストランにしているのは、料理を出して終わりではなく、私自身もお客さんと一緒に作って食べたり話したりしたいからですが、『小田原』を人と人が交流できる場所、そして農家の暮らしや遊佐の伝統を伝えられる場所にできたらと思っています」

「体験型農家レストラン『小田原』」には、美味しい料理はもちろんのこと、まるで実家に帰ってきたような安らぎがありました。何を豊かだと思うかは人それぞれですが、「畑から収穫したばかりの旬の素材を、シンプルな調理法でたっぷり食べる」というのは、究極の贅沢のひとつかもしれません。

玄関に飾られている小田原さんの似顔絵に見送られながら、この日は『小田原』を後にしました。是非またランチかディナーにお邪魔したいと考えていますが、その時は思わず「ただいま」と言ってしまいそう……そんな気分にさせてくれる場所でした。

【番外編】鳥海山の端から端まで見える絶景に出会えました

取材に伺った日は土砂降りだったためお天気のいい日に再訪したのですが、小田原さんのご自宅から真正面に見える鳥海山は、想像以上の絶景でした。
何も遮るものがないため、鳥海山だけでなく劔龍神社(よみ:けんりゅうじんじゃ)の鳥居や、線路を走る特急「いなほ」も見えるのだそうです。
『小田原』に行った際には、是非チェックしていただきたい風景のひとつです。

「体験型農家レストラン『小田原』」情報

屋号:体験型農家レストラン「小田原」
代表者名:小田原 裕
住所:山形県飽海郡遊佐町富岡字道内57
電話番号:0234-72-2670
料金:ランチ1,000 円~、ディナー 2,000 円~
営業日:通年。日にちに関しては直接連絡のうえ調整。
備考:1 日 1 組限定の完全予約制( 1 週間くらい前までに予約を)。2~ 10 名まで受け入れ可能。

<ライター紹介>

ライター:ガンバリーニ杏子
神奈川県鎌倉市出身。2018年3月にフランス人の夫とともに酒田市に移住。
ライター仕事や翻訳・通訳業、ブログ「ボンジュール庄内(bonjourshonai.work)」運営のかたわら、2020年6月より酒田市中心商店街にボードゲームカフェ&バー「Chez Pierre(シェ・ピエール)」を夫とともにオープン。北庄内地域通訳案内士の資格も所持。愛猫の「ぽんぽん」に齧られるのが日課。