庄内に春の到来を告げる県魚「サクラマス」

2022.03.30

「サクラマス」という魚をご存知ですか?

1992年(平成4)に「山形県の魚」に選ばれたサクラマスは山形県民にとっては春の訪れを告げる大切な存在。お祝いの席に供されることもあるごちそうです。

とはいえ、県外の方にとっては「春に獲れるマスのことでは?普通のマスと何が違うの?」と思うかもしれません。

今回は、山形県の春に欠かせないサクラマスの生態や、釣り人が大挙して挑戦するサクラマス釣りについてお伝えしたいと思います。

実はヤマメと同じ種類?サクラマスの秘密とは

スーパーマーケットや料理屋のメニューに「サクラマス」が現れると、長く寒い冬が終わって春が来たという気持ちになります。脂がのったサクラマスは、煮つけや素材の味を引き立てる素焼き、庄内地方ではお祝いの席のごちそうとして餡かけ料理が食されます。

しかし、サクラマスがどうして「サクラマス」と言われるのか、そして春以外に見かけないのは何故なのか等、山形県に住んでいながら、あまり詳しくは知りませんでした。

そこで今回は、両羽漁業協同組合理事で、ご自身もサクラマス釣りや伝統漁法の「流し網漁」を行っている堤尚史(つつみ ひさし)さんにサクラマス、そしてサクラマス釣りについてお話を伺いました。(ちなみに堤さんが好きなサクラマスの食べ方は煮つけだそうです)。

庄内地方では古くから春の味覚として愛されているサクラマスですが、元々は川魚のヤマメと同じなのだとか。同じヤマメの親から生まれた後、育ち方の違いにより異なる魚に成長するそうです。

こちらはヤマメの写真。サクラマスとは少し見た目が異なります。

ヤマメもサクラマスも、川でふ化するところまでは同じですが、そのまま川に残るものがヤマメで、全長約20~30㎝ほどの成体となります。一方、ふ化した後1年ほど川で過ごしたあと、「スモルト化」といわれる海水への適応力を得たものが、体色も銀に変色をして海へと下っていき、サクラマスになります。

海へ出たサクラマスの幼魚は、夏はオホーツク海、冬は道南周辺で越冬しながら全長50~70cmほどまで大きく成長し、ふ化から3年目の春に生まれた川へと戻ってきた成体が「サクラマス(別名:本マス)」です。その名前の由来は、桜色を帯びた身の色からとも、桜の季節に遡上するからとも言われています。

毎年3月1日解禁!釣り人が押し寄せるサクラマス釣りとは

サクラマス釣りのスポットとなるのが、庄内地方を流れる最上川と赤川。

特に酒田市浜中の赤川河口付近には、毎年3月1日のサクラマス釣り解禁日に合わせて多くの釣り人が訪れ、その様子は県内ニュースでも放送されるほど。2022年の解禁日当日も、何と100人ほどの釣り人が集まったそうです。

しかし、釣れるから釣り人が集まってくる……というわけではありません。堤さんによると、サクラマスは釣るのがとても難しい貴重な魚で、「シーズン中、1匹釣れるかどうか」というレベル。20年近く毎年サクラマス釣りをしていても1匹も釣れたことがない、というのもよくある話だそうです。

サクラマス釣りは、一般的にはルアーを使って行われます。

その他、伝統的な「流し網漁」も存在します。これは全長7メートルほどの舟に1人で乗り込み、およそ50メートルの網を舟後方から流してサクラマスを獲るという漁法で、雪が完全に溶けた4月下旬頃から行われるのだとか。舟を前進させながら網を流すことで、水の抵抗を受けた網が川幅3分の1程に自然に拡がり、水中にいるサクラマスを絡めとるそうです。

他県でも複数人で網を流すサクラマス釣りはあるものの、一艘の舟に漁師一人が乗り込んで流し網を行うのは日本でも最上川においてだけとのこと。また、現在ではエンジンを積んだ舟を使いますが、過去には手漕ぎで舟を操りながら網を流していたそうで、とても労力がかかる漁法といえます。

その大変さにより段々と流し網漁をする漁師が少なくなり、現在では堤さん以外に行う人はほぼいないとのことです。

また、川で行うルアー釣りや「流し網漁」だけでなく、鶴岡市の沿岸部では、川に遡上する前の海のサクラマスを狙う「定置網漁」も行われています。こちらは川釣りよりも時期が遅く、春の彼岸過ぎから始まるとのこと。沖合500mほどに仕掛けた網で回遊するサクラマスを捕まえる方法で、4月~5月に水揚げ量の最盛期を迎えるそうです。

「シーズン中に庄内を訪れて、サクラマス釣りに挑戦したい!」と思った方もいるかもしれません。ぜひ、挑戦いただきたいのですが、サクラマスは地域や河川によって釣りが許可される期間が異なったり、禁漁区があったりするだけでなく、遊漁券の購入が必要です。遊漁券は内水面漁業協同組合等で取り扱っており、ビジターの場合は1日券も購入できるので、釣りの前には必ず管轄の漁業協同組合に問合せましょう。

また、サクラマス釣りが解禁されるのは、山形県では毎年3月1日から8月31日まで。サクラマスの増殖を目的とするため、9月1日から翌年2月末までは禁漁期間となります。

期間が決まっているサクラマス釣りですが、中でもベストシーズンは解禁日から5月頃までとのこと。その期間中、よほど天候が荒れない限り毎日釣りをするという人も珍しくないのだとか。お話を伺った堤さんもその一人で、5月頃までは休みの日は1日中、平日仕事がある日は昼休みにも川へ行くというスケジュールだそう。

そんな堤さんのサクラマス釣りに同行してみました。

釣る場所をハシゴ!解禁日にサクラマスを狙って

解禁日の3月1日を心待ちにする釣り人が多くいると書きましたが、堤さんもその1人。毎年3月1日は仕事の休みを取り、早朝からサクラマス釣りを行うのだとか。

「午前中は釣りに集中しているのでとても忙しい」とのことだったので、解禁日である3月1日のお昼過ぎの釣りに同行させてもらいました。

既に朝早くから水の具合を見ながら場所を変えて釣りを行っていたそうですが、「今日は水が濁っているので、誰も釣れないんじゃないかな」とのこと。

場所は、酒田工業用水道事務所に近い最上川河川敷。まだ雪の残る川べりを、水際に向かって進みます。私もスノーシューを履いてついていったのですが、踏みしめる雪がサラサラのものではなく、湿気を含んだ重い雪になっていて、こんなところでも冬が終わりに近いことを感じさせられました。

川岸に到着し、早速竿を振る堤さん。この時は岩場に乗ってでしたが、まだ水温の低い川の中にざぶざぶと入り、腰ほどまで浸かりながら釣りをすることも多いそうです。

私自身あまり詳しくないため、「釣りをする」というと、竿を仕掛けてしばらく待つのかと思っていたら、サクラマス釣りは全然違いました。長い釣竿を水面に向かって振り、すぐさま引き上げるというのを何度も繰り返します。

物陰に潜んで休憩しているサクラマスをおびきよせるためとのことですが、わずかな時間でも数十回、1日釣りをする日は何百回何千回と竿を振るそうです。そのうえサクラマスは、なかなかお目にかかれない貴重な魚というのですから、釣り人が次こそはと夢をかけるのもわかる気がします。

残念ながら最上川のこのスポットでの釣果はなし。しかしこの後も、場所を移して解禁日の釣りを楽しんだそうです。
  • 写真提供:庄内浜文化伝道師協会
  • 写真提供:庄内浜文化伝道師協会
  • 写真提供:庄内浜文化伝道師協会
  • 写真提供:庄内浜文化伝道師協会
  • 写真提供:庄内浜文化伝道師協会

(写真提供:庄内浜文化伝道師協会)

庄内地方に春を告げる魚、サクラマス。

漁の時期が限られ、釣り上げることもなかなか難しいことから、幻の高級魚ともいわれており、産地以外で見かけることはあまりないかもしれません。

ぜひ庄内に足を運び、サクラマスを味わってみてください。春の訪れを感じさせるやわらかな旨味は、まさに絶品ですよ。

■両羽漁業協同組合
所在地:酒田市新堀字法流田5-8
電話番号:0234-93-2572
関係主要河川:最上川
遊漁料金(山形県内水面漁業協同組合連合会HPより)

<ライター紹介>

ライター:ガンバリーニ杏子
神奈川県鎌倉市出身。2018年3月にフランス人の夫とともに酒田市に移住。
ライター仕事や翻訳・通訳業、ブログ「ボンジュール庄内」運営のかたわら、2020年6月より酒田市中心商店街にボードゲームカフェ&バー「Chez Pierre(シェ・ピエール)」を夫とともにオープン。北庄内地域通訳案内士の資格も所持。愛猫の「ぽんぽん」に齧られるのが日課。

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