歴史ある二つの蔵を巡る!庄内町の発酵文化に触れる旅

2022.03.31

こんにちは、地元ライターの國本です。

近年よく耳にする「発酵」という言葉。発酵とは、細菌や酵母、カビ等の微生物の作用によって、食品の保存性や栄養価が高まったり、味わいや香りが増したりと、食物が人間にとって有益に変化することを指します。

実は日本は、世界的にも稀に見る“発酵大国”。その歴史は古く、記録に残っているだけでも奈良時代にはすでに発酵食品が存在していたそうです。よくよく考えてみると、納豆や漬物をはじめ、普段のお料理で使う醤油や味噌・酢などの調味料、そして日本酒などの嗜好品に至るまで、我々の食卓は発酵食品で溢れていると言っても過言ではありません。しかし、製造している現場に触れるという機会はなかなかないのではないでしょうか。

そこで今回は、発酵食品にまつわる蔵が隣接していると聞きつけ、庄内エリアの中心部に位置する庄内町へ。醤油や味噌などを製造する「ハナブサ醤油株式会社」、日本酒を醸造する「合名会社佐藤佐治右衛門(やまと桜)」の2つの蔵を訪問しました。

(※)2022年3月に取材した内容となります。

昔ながらの伝統的な製法を守る造り醤油屋「ハナブサ醤油」

ハナブサ醤油とは

JR余目駅から徒歩15分ほど、歴史のある家屋が立ち並ぶ通りを歩いていると、突如醤油や味噌の良い香りが漂ってきます。この香りの元となっているのが、ハナブサ醤油の蔵です。

ハナブサ醤油の創業は、江戸時代の1823年(文政6年)。元々は大きな農家で、意外にも七代目の妻・ふしさんが醸造を始めたのがきっかけだったそうです。創業当初の屋号は「福島屋」。先祖が福島出身だったということからその名前がついたとのこと。その名残から、現在でも当時の屋号が刻まれた看板を見ることができます。

そして、看板の横にはよく造り酒屋で見る“杉玉”が。実はハナブサ醤油さんは、創業当初は酒、漬物や酢など、様々な発酵食品を製造していたのだとか。しかし、明治・昭和と2度の火災により、施設の一部が焼けてしまったため事業を縮小。現在は伝統的な製法を守りながら、醤油と味噌、そして庄内地方の伝統食である「しょうゆの実」の製造販売を行なっています。

いざ、蔵の中へ

今回蔵をご案内いただくのは、15代目当主を務める佐藤真一社長です。

元々大の旅行好きだという真一さん。旅先でその土地の人々と触れ合うことが楽しみだったこともあり、それならば自分の蔵にも人に来てもらえるようにしたいと考え蔵の見学を開始。入り口にショーウィンドウを設置したり、売店を作ったりして、観光客にも喜んでもらえるような仕掛け作りを始めたといいます。

建物の中に入ると、外にいた時より一層強い醤油や味噌の香りが漂います。この香りを嗅ぐだけでもお腹が空いてしまいそうです(笑)。
進んでいくと、「しょうゆ蔵」「みそ蔵」「モロミ蔵」などへと続く趣のある廊下が。廊下にはハナブサ醤油やその周辺にまつわる昔の写真や絵などが飾られており、蔵見学と同時にこの周辺の地域の歴史まで感じることができます。

奥へ進むと休憩所が。ここでは、蔵見学にいらした方が休めるほか、蔵の紹介動画なども上映されています。室内には傘福や、真一さんが趣味で集めているというこけしなども飾られており、それらを眺めてみるのもまた楽しいですよ。

鳥海山を望む自慢の庭園にうっとり

歴史のある建物はもちろんですが、ハナブサ醤油さんにいらしたら是非見ていただきたいのがこちらの庭園です。季節ごとに姿を変える庭園からは、天気がよければ鳥海山を臨むことができます。

どの季節もそれぞれ素敵ですが、一番のおすすめは春。というのも、4月中旬頃になるとハナブサ醤油の敷地内で立派なしだれ桜を見ることができるからです。毎年その時期には「観桜会」も開催され、しだれ桜を眺めながら鶴岡玉琴会によるお琴の演奏を聴くことができるのだそう。観桜会にご興味のある方は是非、庄内町観光協会(TEL:0234-42-2922)に問い合わせてみてくださいね。

お土産は売店でチェック

先述のとおり、ハナブサ醤油の入り口付近には売店があります。取材日は3月だったこともあり、歴史あるお雛様も飾られていました。ここではハナブサ醤油の様々な商品が販売されているので、お土産購入にぴったりです。

この日私が発見したのは、「さかたの塩」と共同開発した新商品の「醤油塩」。醤油を造る時に出る澱(おり)を活用した塩で、肉や魚に醤油がわりにまぶして使うことができます。これでおにぎりを握ると、まるで焼きおにぎりを食べているような香ばしい醤油の香りが広がって、手軽に一味違った逸品になりますよ。

ハナブサ醤油では、JR余目駅からタクシーでいらした方向けに行きのタクシー料金の半額補助も行なっています。余目駅にいらした際には、是非ハナブサ醤油に立ち寄ってみてください。


次にご紹介するのは、同じく余目駅から徒歩15分ほど、ハナブサ醤油からは徒歩3分と目と鼻の先にある造り酒屋、「合名会社佐藤佐治右衛門」です。

趣のある母屋も必見!地元で愛される酒蔵「合名会社佐藤佐治右衛門(やまと桜)」

合名会社佐藤佐治右衛門(やまと桜)とは

一見日本酒の蔵元には見えない、可愛いフォルムの建物が目印の合名会社佐藤佐治右衛門。創業は、1890年(明治23年)で、代表銘柄の名称が「やまと桜」であるため、通称やまと桜と呼ばれています。“やまと”は日本民族のルーツである“倭”から、桜はその“倭”の代表の花である事から、「やまと桜」と命名したのだそう。その名の通り、やまと桜の蔵のそばにもきれいな桜の木があります。

やまと桜が目指すのは、「食事の邪魔をしない、呑み飽きのしない酒。」地元の蔵人が、地元産米と山形酵母、月山の雪解け水など地元の原料にこだわって昔ながらの伝承を守りながら造る酒は、過去に全国新酒鑑評会で金賞を受賞しています。

蔵見学スタート

今回ご案内いただくのは、8代目代表社員の佐藤元さんです。元さんは元々12年ほど杜氏(とうじ)と呼ばれる酒造りの責任者と代表社員を兼務していましたが、現在は別の方に杜氏を任せ、引き続き一蔵人として酒造りに携わっています。

早速蔵の中をご案内いただくと、大きな米を蒸す機械がお出迎え。やまと桜では酒の仕込みを通常11月から2月頃までやっており、その時期は基本的に一般の方は立ち入り禁止のため作業そのものを見ることはできませんが、実際に作っている工程に沿って元さんが丁寧に説明してくれます。

ちなみに、やまと桜の蔵は平屋ではなく3階建て。こちらのフロアでは洗米、米を蒸す作業、そして蒸した米から日本酒の元となる麹を作る作業、酒母と呼ばれるアルコール発酵を促す酵母を大量に培養したものを作る作業を行います。できた蒸米はこちらの穴から次の作業を行う二階へと運ばれていくのだそう。とっても効率的ですね!

さらに下の階へと進むと、今度は巨大なタンクがずらりと立ち並びます。こちらでは先ほどできた酒母に麹、蒸米、水を入れて発酵させるのだそう。この発酵した状態は「もろみ」と呼ばれます。こちらの作業場の温度は約5度と、夏でもひんやり。床には柿渋といった渋柿を発酵させた液体が塗られているので、黒くなっています。この柿渋には殺菌・防水・防虫効果があるのだそうです。
最終的にここで仕込んだもろみを絞って、日本酒と酒粕が出来上がります。

ちなみに元さんは搾りたての板状になった酒粕を網で焼いて食べるのがお好きなんだとか。焼くと外は香ばしく、中はフワッとなり、口に入れると日本酒の香りが口いっぱいに広がります。まさに、蔵元ならではの酒粕の楽しみ方ですね!春先であれば板状の酒粕を販売できることもあるそうなので、ご興味のある方は訪問した際に尋ねてみてください。

歴史ある大正時代の母屋も必見

やまと桜に来たら是非見ていただきたいのが、大正時代に7年もの年月をかけて造られたれた母屋。なんとこちらに使われている柱や梁には、木が丸ごと一本使われているのだそうです。また、窓に使われているのはいわゆる手延べの板ガラスで、職人が手作りしたもの。表面が波打っており、外の景色が少しゆらいで見える大変貴重なものです。
現在はなかなか出来ませんが、コロナ禍以前はよくこちらの部屋を宴会場として使っていたとのこと。こんな素敵な空間でここで造られたお酒が飲めるなんて、日本酒好きにはたまらないですね。

日本酒の購入も可能

やまと桜では、ご希望があればその場で日本酒を購入することが可能です。年間を通して販売しているものもあれば、その季節ならではの日本酒もありますので、是非その時々のおすすめを蔵元に尋ねてみてください。きっとお気に入りの一本が見つかりますよ。

蔵めぐりを終えて

発酵にまつわる二つの蔵を訪問してみましたが、どちらもそれぞれ歴史があり、製造現場を巡るのはもちろんのこと、家屋や庭園などにも見どころがたっぷり詰まっていて、あっという間に時間が経ってしまいました。ハナブサ醤油とやまと桜は歩いていける距離にあるので、庄内にお越しの際は庄内町の二つの蔵を巡って、発酵文化に触れてみてはいかがでしょうか。


【施設情報】
<ハナブサ醤油株式会社>
場所:〒999-7781 山形県東田川郡庄内町余目字町161
アクセス:JR余目駅から徒歩約15分、日本海東北自動車道 酒田ICから車で約15分
入場料:無料
駐車場:あり
営業時間:9:00~18:00
定休日:土日祝
公式サイト

<合名会社佐藤佐治右衛門(やまと桜)>
場所:〒999-7781 山形県東田川郡庄内町余目字町255
アクセス:JR余目駅から徒歩約15分、日本海東北自動車道 酒田ICから車で約15分
入場料:無料
駐車場:あり
営業時間:8:00~17:00
定休日:土日祝 ※11月~2月は見学不可

【施設見学のお問い合わせはこちら】
庄内町観光協会
場所:〒999-7781 山形県東田川郡庄内町余目字沢田108-1(新産業創造館クラッセ内)
アクセス:JR余目駅より徒歩約1分
電話:0234-42-2922

<ライター紹介>

地元ライター:國本 美鈴(くにもと みすず)
埼玉県深谷市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、都内の情報・通信系企業にて新規事業立ち上げやメディアの編成・PR等を担当したのち、2019年7月〜庄内に移住。現在、庄内町地域起こし協力隊観光PR担当として、イベントの企画やSNS等を活用した地域の情報発信などを行うほか、北庄内地域通訳案内士の資格も持つ。これまで訪問した国は45カ国という大の旅好き。庄内の魅力を県内外、そして海外の人にも発信すべく奮闘中!

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