まだ知らない羽黒山に出会える?!地元ガイドによる羽黒山ツアー

2021.07.30

こんにちは、地元ライターの國本です。

言わずとしれた人気観光スポットである「出羽三山」。中でも羽黒山は一年を通してアクセスが可能で、三山の神を祀る三神合祭殿や、国宝羽黒山五重塔などをお参りしようと、多くの方が訪れる場所です。

羽黒山の入り口である随神門から国宝五重塔までの距離は徒歩で10分程度と行きやすく、また、山頂へは車でも行くことができるため、個々人で参拝される方が大半ではないでしょうか。私自身、今まではその一人でした。

しかし、羽黒町観光協会のウェブサイトを覗くと「羽黒山ガイド」の文字が。どうやら、“地元羽黒で、息を吸うようにその歴史や文化をいっぱい吸い込んできたガイドのみなさんが、一歩踏み込んだ羽黒山へお客様をご案内”してくれるのだそうです。これは気になる!と言うわけで、今回は羽黒山参詣道の随神門から国宝羽黒山五重塔、そして宿坊街(※)までを、羽黒山ガイドにご案内いただいた様子をレポートします!


(※)宿坊街コースは通常受付をしておりません。案内をご希望の方は、羽黒町観光協会までお問い合わせください。

まずは「いでは文化記念館」に集合!

ガイドツアーの始まりは、随神門から徒歩3分ほどの距離にある「いでは文化記念館」。こちらで、いでは観光ガイドの会の方と待ち合わせます。

地元に詳しいガイドの方とお伺いし勝手に年配の方を想像していた我々でしたが、予想は大外れ。目の前に現れたのは、羽黒山きってのイケメンガイドと名高い佐藤雅広さんでした。なんと現役の美容師さんでもあるということで、佐藤さんの気さくな雰囲気にその場は一気に和やかなムードに。当日は生憎の雨模様だったため、我々も雨支度をして早速随神門へと出発しました。

ちなみに、いでは文化記念館には荷物を預けることのできるコインロッカー(有料)を利用できるほか、無料でスニーカーや長靴を貸し出しています。特に雨天の場合、石段はとても滑りやすいので、うっかりパンプスやサンダル、革靴、汚れては困る靴などを履いてきてしまった方は必ず履き替えてくださいね。

さらに、金剛杖も一本100円で貸出しているので、足元が不安な方にお勧めです。

いざ、生まれかわりの旅のスタート地点へ

随神門前の鳥居に到着したところで、いよいよガイドツアーがスタート。今年は12年分の御利益を得られると言われている「丑歳御縁年」ということで、随神門の側にも大きな看板が掲げられていました。

毎年8月下旬から9月頭までの7日間、羽黒山伏になる資格を得るための入門儀礼である「秋の峰入り」が行われる際、最初にこの鳥居の前で「入峰祭(にゅうぶさい)」と呼ばれる儀式が行われます。実はこれ、「お葬式」のことなんだとか。
山伏たちの魂はここで一度死に、無の状態になった上で修行をして、パワーをもらったり、これまで自分が犯した罪を清めたりしながら、最後に湯殿山の産湯に浸かって新しく生まれ変わる。それが、出羽三山巡りが「生まれかわりの旅」と呼ばれる所以なのだそうです。修行の際、山伏たちが白装束を着ているのにはこんな理由があったんですね!

鳥居をくぐると、左手に「随神門授与所」が。ここでは、「五重塔」、「天地金(てんちこん)神社」の御朱印をいただくことが可能です。
ここで佐藤さんから、「なんで御朱印を集めるか知っていますか?」との質問が。恥ずかしながら知らないと伝えると、佐藤さんはこう説明してくれました。

「最近はコレクション的に集める方も多いですが、本来御朱印とは地獄の門番への通行手形なんですよ。御朱印を集めたということはお参りをするために神社やお寺に行って歩く=修行したとみなされるので、火葬の際棺の中に入れて一緒に炊き上げ、『私は現世でこんなに修行したから、どうか極楽浄土へ送ってください』と閻魔大王様にアピールするんです。」

御朱印帳を持っていない私ですが、この説明を聞いて一気に御朱印帳が欲しくなったのでした。

随神門から続く“産道”へ

続いて、随神門の前で立ち止まります。人の世界と御神域である山を分かつとされる随神門。ここから山頂へと続く2446段の石段が始まります。この石段は、江戸時代初期に第50代羽黒山別当の天宥(てんゆう)が、水に濡れると滑りやすかった参道を整備するために敷いたものです。

門の先に広がるのは通称「継子坂(ままこざか)」と呼ばれ、随神門を背にして石段を見た際羽黒山唯一の下り坂。)実は、出羽三山の参道は生まれ変わるための“産道”とされており、一度死んだ魂が、産道に下って行って母体(=出羽三山)に還っていく、という意味合いを込めているんだそうです。

これまでは何も考えずにただ歩いていましたが、改めて聞いてみると道ひとつとっても様々な謂れがあることがわかるのでとっても興味深い!我々は佐藤さんのお話を伺いながら、一歩一歩噛みしめるように進んで行きます。

参道を進んで行くと突如佐藤さんが立ち止まり石段を指さしたのですが、そこには何やら絵のようなものが。なんと参道の石段にはところどころに盃、徳利、ひょうたん、扇、山伏(天狗)などの絵が33個も彫られていて、18個以上見つけると願いが叶うと言われているんだとか。天宥別当が彫ったという説や、石段を運んだ人たちが辛い作業の最中に宴会を思い描きながら彫ったという説など、誰が彫ったかは諸説あるようです。この写真の絵は、山伏の絵でしょうか。

こんなことを聞くと、全部見つけたくなってますますゆっくりと進んでしまいますね。

国宝羽黒山五重塔だけじゃない!道中にある数々の見どころ

さらに歩いていくと、小さな社(やしろ)が点在するエリアが出現。立て札を見てみると、それぞれに神様が祀られていることがわかります。なぜこのように社が集まっているのかについても、やはり諸説あるとのことですが、佐藤さんは、全国から出羽三山に修行に来た方々が、自分たちの故郷の神様を祀ってお参りしたり、寝泊まりしたりしたという説を教えてくれました。

しばらくすると水が流れる音が聞こえてきます。こちらは、「秡川(はらいがわ)」と呼ばれる川で、かつては参拝者が皆ここで汚れた身を清めたのだそうです。

その奥に見えるのが「須賀の滝」。この滝は、山中に田んぼを作るために月山から水を引いてきた際に作られた人工の滝ですが、かねてより滝には神様が宿ると考えられているため、滝のそばには祓川神社(祭神:瀬織津比咩神、速開津比咩神、気吹戸主神、速佐須良比咩神)、左側には岩戸分神社(祭神:天手力雄命)、奥には不動明王が祀られています。

羽黒参道の両脇にそびえ立つ杉の木は樹齢500年ほど。石段と同じく天宥別当が参道に土や石が流れないようにするために植えたと言われていますが、突如それらの木々とは桁違いに太くて大きな木が現れます。それがこの「爺スギ」。樹齢は推定1,000年以上で、しめ縄のあるところで11mほどの太さがあるんだとか。大人が6〜7人手を繋いでようやく一周になるほどの大きさですね!

何度見ても圧巻の国宝羽黒山五重塔

そして爺スギからほど近くに、いよいよこのガイドツアーの目的地である国宝羽黒山五重塔が姿を現します。こちらは、修験道の信者であった平将門が自らの墓とするために創建したと言われていますが、結局その願いは叶わず、娘である如蔵尼が父の遺志を継いで建立したとされています。

通常、お墓はお寺の中にありますが、こちらは明治時代の神仏分離令が出る前に建てられ、その後神社となったため、唯一神社の中にある五重塔なんだそう。

行く時々で表情が変わる国宝羽黒山五重塔は、何度見ても圧巻の佇まい。年間300回ほど羽黒山ガイドをするという佐藤さんまで写真を撮っていました。(笑)

さて、国宝・五重塔コースはこれにて一旦終了です。随神門へと戻りつつ、我々は次の目的地・宿坊街へと向かいました。

そもそも「宿坊街」とは?

宿坊とは、お寺や神社の参拝者のための宿泊施設のこと。羽黒山伏の先祖は元々羽黒山中に寺を構えていましたが、天宥別当の命により山伏たちは羽黒山麓の手向(とうげ)地区へと降りて、参拝に来る方々のための宿坊を営み始めたのだそうです。
当時は336軒あった手向の宿坊も現在は28軒となりましたが、山伏が今なお生業として宿坊をやっているのは世界中でもここだけと言われているほどで、宿坊街そのものがとても貴重なものだということがわかります。

通常、宿坊街のガイドツアーは行っていないのですが、今回は特別にご案内いただきました。

宿坊街に残る数少ない“仏教寺院”へ

宿坊街ツアーで最初に向かったのは、「羽黒山正善院黄金堂(しょうぜんいんこがねどう)」。こちらは源頼朝が平泉の藤原氏を討つにあたり、勝利祈願のため寄進したもの。東北でも珍しい等身大の三十三体の聖観世音菩薩像が安置されており、国の重要文化財にも指定されています。

元々、出羽三山は“神仏習合”の宗教である「修験道」の道場とされていましたが、明治時代、政府の神仏分離令により神仏習合の慣習は禁止され、神道と仏教、神と仏、神社と寺院とをはっきり区別しなければならないことに。出羽三山では主に神道化が進んでいきます。

それに伴い、神社から仏教的要素を払拭すべく、仏像・仏具の破壊、経文を焼く、寺院の廃合、僧侶の神職への転向などが急速に行われることに。当時、出羽三山は信者が多かったことから、謀反を起こされないように特に厳しい措置を受けたのだそうです。

そんな中、手向の宿坊のうち正善院と金剛樹院は仏教寺院として残ることに。本来であれば羽黒山の中にあるお寺のものは焼き払うか捨てるかをしなければならなかったものの、由緒あるものを焼き払いたくない!という想いから、黄金堂の中に隠そうということに。そのため黄金堂には、随神門に安置されていた仁王像や五重塔に安置されていた御本尊前仏などをはじめ、貴重な仏像の数々が祀られています。

宿坊が立ち並ぶエリアを散策

さて、次はいよいよ宿坊が立ち並ぶエリアへと進んでいきます。
元々羽黒の中でも別のエリア出身という佐藤さん。
「子どもの頃、花まつりや八朔祭(いずれも出羽三山神社にて行われる神事)があると手向地区の子供達は学校を休んでいたから、羨ましいと思っていました(笑)」などと雑談を交えながら、宿坊街を案内してくれます。

さすが地元ということで、宿坊を営んでいるお友達も多いのだとか。現在宿坊街、そして羽黒山を盛り上げようと取り組まれているのは若い世代の方々なのだと知り、これまで自分とは別世界のように感じていた羽黒山、そして手向地区が、身近に感じられるようになりました。

宿坊の中には、入り口に「●●県●●市」などと地域名を掲げているところがあります。これは、宿坊にはそれぞれに担当のエリアがあり、そのエリアから参拝に来る方々(=檀家)に宿泊いただくからなのです。毎年、冬には宿坊を営む山伏がそのエリアへと出向き、檀家回りをするんだとか。これは江戸時代に天宥別当が宿坊の経営を命じた時からの習わしで、400年の時を経た現代までずっと変わらず受け継がれています。

ちなみに現在は、担当エリアからの参拝者だけでなく、一般のお客様が宿泊できる宿坊も多く存在します。ご興味のある方は、一度各宿坊へお問合せしてみてください。

羽黒山ガイドツアーを終えて

宿坊街を抜けると、再び随神門前へと到着。これにて今回のツアーは終了です。

今回は国宝羽黒山五重塔、そして宿坊街を巡るコースをご案内いただきましたが、やはり自分で見て歩くのと、地元を知り尽くしたガイドの方にお話を聞くのとでは面白さが段違い!何度となく訪れたことのある国宝羽黒山五重塔でしたが、これまで知らなかった発見の連続で、今度は山頂までガイドの方にお話を伺いたい!と思ったほどでした。

今回ガイドをしていただいた佐藤さんの他にも、様々な経歴をもつ地元の方26名がいでは観光ガイドの会として活動をされているそうで、同じコースでもガイドの方によって違った角度のお話が聞けてまた面白そうですよね。
みなさんも是非一度、羽黒山ガイドのツアーを体験してみてください!きっと、今まで知らなかった羽黒山に出会えますよ。


【羽黒山ガイドについて】
<コース・料金・所要時間>
※ガイド1名当たりの料金。各コースはガイド1名につき20名まで。
・国宝・五重塔コース(3,000円/45分程度)
・五重塔・バス山頂コース(5,000円/100分程度)
・石段山頂コース(7,000円/120分程度)

<ガイド不可能日>
・4月~6月 毎週火曜日
・9月~11月 毎週火曜日
・12月~翌年3月 冬期間休業

<お申込み・お問い合わせ>
・羽黒町観光協会事務局(いでは観光ガイドの会)
 受付時間:4月-11月 9:00-16:30/12月-3月 9:30-16:00(定休日毎週火曜)
TEL : 0235-62-4727/FAX: 0235-62-4729
E-mail: hagurokanko@bz04.plala.or.jp
詳細URL:https://hagurokanko.jp/p28/haguro-guide/
・お申込み期限:ガイド希望日の1週間前までに、メールかFAXか電話でお申し込みください。
羽黒町観光協会公式サイトはこちら


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<ライター紹介>

地元ライター:國本 美鈴(くにもと みすず)
埼玉県深谷市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、都内の情報・通信系企業にて新規事業立ち上げやメディアの編成・PR等を担当したのち、2019年7月〜庄内に移住。現在、庄内町地域起こし協力隊観光PR担当として、イベントの企画やSNS等を活用した地域の情報発信などを行うほか、北庄内地域通訳案内士の資格も持つ。これまで訪問した国は45カ国という大の旅好き。庄内の魅力を県内外、そして海外の人にも発信すべく奮闘中!

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