出羽三山の恵みをいただく“おいしい修行”−羽黒山参籠所「斎館」

2021.03.22

こんにちは、地元ライターの國本です。

皆さんは“精進料理”をご存知でしょうか?
私は恥ずかしながら、「肉や魚を使ってはいけない」「僧侶が食べるもの」というようなざっくりとしたイメージはあったものの、これまで実際に口にしたことはありませんでした。

しかし、日本三大修験山の一つである出羽三山を有する山形県庄内地域では、かねてより山伏たちが修行のなかで編み出した精進料理が存在。次第におもてなし料理として人々に親しまれるようになりました。なんと、かの松尾芭蕉が出羽三山に訪れた際も精進料理でもてなしたと言われているそうです。

そこで今回は、羽黒山伏伝承の精進料理を提供する羽黒山参籠所「斎館」に足を運び、実際に精進料理をいただきながら、料理長の伊藤新吉さんにお話を伺いました。

斎館とは

羽黒山の山頂に位置する斎館。もとは華蔵院(けぞういん)と呼ばれる寺院でしたが、明治時代の神仏分離の際、神社の「斎館」として残り、やがて参拝者が食事をしたり宿泊したりする参籠所(さんろうじょ)となりました。江戸時代には山内に30以上あった昔の坊舎のうち、山伏たちの住した遺構として今に残るのはこの斎館のみとのこと。2005年(平成17年)には、鶴岡市文化財にも指定されています。

現在は参拝者だけでなく一般の方々も宿泊や食事が可能で(※)、天然の山菜やきのこなどお山の恵みたっぷりのお食事をいただくことができます。

(※)2021年3月現在、新型コロナウイルス感染防止対策のため宿泊受入は休止中。昼食は要予約。詳しくはお問い合わせください。

精進料理と出羽三山の精進料理の特徴

ここ最近、ヘルシー志向の方や、ベジタリアン・ビーガンの方からも注目されている精進料理。そもそもは、仏道を歩むものに対して施される食事のことを指します。

仏教の戒律では殺生を禁じていることから、基本的には動物性の食品を避け、野菜や穀物などの植物性の食品を使って調理。また、植物であっても匂いが強く精のつくもの(ねぎ、玉ねぎ、にんにくなど)は使われません。これは、力は食べ物によってつけるものではなく、修行によってつけるものだという考えに基づいています。

一方で、出羽三山の精進料理は、山伏たちが山の中で修行する際生きていくために食べていたものが起源。そのため、基本的な考えは踏襲しつつも、一般的な精進料理に比べて使ってはいけない食材などのルールが少なく、見た目よりも機能性にこだわっています。

たとえば、一般的な精進料理では昆布や干し椎茸などの「精進出汁」を使用しますが、出羽三山の精進料理ではにぼしや鰹節などを“神様からのお下がり”と捉えて使用することがあります。また、修行で疲れた方に食事を通して元気になってもらうため、熱を下げる効果のあるお味噌を使った料理が多いというのも特徴です。

「食べることは“お山と一体化する修行”。食べることでお山のエネルギーをもらって、いらっしゃった時より元気になって帰っていただきたい。」
伊藤料理長はこう語ってくれました。

“手間暇を惜しまず、結果を期待せず”の精神

伊藤料理長のお話をお伺いしながら、早速私も実食することに。今回は、最もスタンダードな精進料理のお膳「斎食(税込3,300円)」をいただきました。

まず驚くのが、その品数です。正直これまで精進料理というと「ヘルシーだけど物足りなそう」というイメージを持っていましたが、大間違い。御膳の上には、ごま豆腐のあんかけ、干し柿と在来作物である宝谷かぶの天ぷら、トマトとイタドリの甘酢酢の物、月山筍の煮物、湯葉とアサツキの酢味噌和え、無花果の甘露煮とラフランスなど、様々な食材を使ったお料理が所狭しと並びます。

春先はワラビやこごみなどの山菜を中心に御膳は緑色に染まり、少しずつ緑が抜けて秋にはきのこ色、そして冬には保存しておいたものが並ぶ。その日その時の旬のものによって作られる御膳はまさに“一期一会”という言葉がぴったりです。

なんと、これらのお料理に使われる山菜やきのこなどの食材は、先祖代々この土地に住む目利きの方がお山の中に自生しているものを採って届けてくれるもの。例えばきのこ一つをとっても、塩水につけて虫を取り除き、裏側についている葉や土を落としていく。いざ調理、となるずっと前の段階から一つ一つ丁寧な作業を積み重ねて、ようやくこの一膳が出来上るのです。

「手間暇を惜しまず、結果を期待せず。」

この言葉を聞きながら、食べることだけでなく、それを作るまでの過程もまた修行の一環なのかもしれないな、と感じずにはいられませんでした。

作る側から、継承する側へ

もともとは、月山の8合目の山小屋に勤めていたという伊藤料理長。雨の日も風の日も熱心に月山に参拝にくる白装束の方を見るうちに、「こういった方々が身を清めるために食べる精進料理とはどんなものなんだろう」と興味を持ったと言います。
そんな中、たまたま神社の方から斎館で働いてみないかと声をかけられ、25年ほど前に心機一転、精進料理の世界の門を叩くことに。昔からのレシピというものがない中見よう見まねで料理をし、食べて、また作ってを繰り返して、ほぼ独学で腕を磨いたそうです。

斎館にくるまでは山菜すらあまり食べてこなかったという伊藤料理長。しかしだからこそ、先入観なく新しいことに取り組むことができたという側面もありました。その一つが、精進料理の発信です。

もともとレシピ等を一切公開しないことはもちろん、何を聞かれても「お教えできません」というスタンスであった斎館ですが、2011年に国際交流基金による食文化交流事業の一環でフランスとハンガリーで精進料理を振る舞ったことが皮切りとなり、国内外で料理教室等のイベントやほかの料理家の方とのコラボ企画などに参加するようになりました。

「いつの間にか、仕事というだけではなく、人生そのものになってきたような気がしています。」

今では、山伏から受け継いで来たこの精進料理を、日本国内、そして世界中の方々に伝えていきたいという気持ちが強いと伊藤料理長は言います。

“出羽三山からの出前”を食卓に

そんな伊藤料理長が2020年から始めた取り組みが、出羽三山で採れた山菜の瓶詰め「SAI」の通販です。

先述の通り、斎館の精進料理にはお山で採れた山菜やきのこ、そしてそれを採る人の存在が欠かせません。しかし、コロナ禍で例年のようにお客様を迎えることができなくなり、せっかく採った山菜が余ってしまう事態に。天然の食材は一度採らなくなると翌年以降いいものが生えてこなくなってしまい、ひいては採る人達の仕事を奪うことに繋がってしまうという懸念がありました。
その一方で、例年参拝されていた遠方のお客様から「斎館の精進料理が食べたい」という声も多くありました。中には、こちらに来るためにPCR検査を受けた方もいらっしゃったそうです。

この、お山から採る人、作る人、そして食べる人の循環を守りたい。そういった想いから、お山の恵みを瓶に詰めた「SAI」を開発するに至りました。

現在用意している瓶詰めは、「月山筍と塩わらびの松前」「山蕗とふきのとうの味噌」「山うどと紫蘇ぼの味噌」の3種類。そのままご飯のお供にするのはもちろん、調味料としてお料理の味変に使っていただくのもおすすめです。なんと、賞味期限はどれも2週間以内。通販としては一見短く感じますが、日持ちさせるために甘味をプラスしたり味を濃くしたりはせず、現地と同じものを同じ味で提供したい、というこだわりからあえてそうしているのだそうです。

「通販、お取り寄せではなく、“出羽三山からの出前”だと思っていただけたら。」
伊藤料理長はこう話します。

1瓶から購入可能ですが、3個セットの場合は毎年大晦日に羽黒山山頂で行われる松例祭(しょうれいさい)で奉納された稲わらを一つ一つ手編みして作られた「稲わらパッケージ」に包まれて届けられます。

出羽三山にはなかなか足を運べないという方も、まずはご自宅でお山の恵みを味わってみてはいかがでしょうか。

「SAI」についてはこちら


【店舗情報】
店名:斎館
場所:羽黒山山頂
アクセス:鶴岡駅前2番乗り場より路線バス「羽黒山頂」行き、または「月山八合目」行き1時間、羽黒山頂から徒歩10分
電話:0235-62-2357
駐車場:あり
駐車料金:無料
時間:11:00~14:00(要予約)
定休日:年中無休

※本記事は日本海美食旅(ガストロノミー)プレミアムレストラン参加店の取材記事です。

<ライター紹介>

地元ライター:國本 美鈴(くにもと みすず)
埼玉県深谷市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、都内の情報・通信系企業にて新規事業立ち上げやメディアの編成・PR等を担当したのち、2019年7月〜庄内に移住。現在、庄内町地域起こし協力隊観光PR担当として、イベントの企画やSNS等を活用した地域の情報発信などを行うほか、北庄内地域通訳案内士の資格も持つ。これまで訪問した国は45カ国という大の旅好き。庄内の魅力を県内外、そして海外の人にも発信すべく奮闘中!

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