【観光の舞台裏 vol.1】加茂水族館ボランティアガイド「岩ゆり」会長 石名坂績

2020.09.30

庄内の観光に携わる“人”にフォーカスして、その舞台裏をインタビューする「観光の舞台裏」シリーズ。記念すべき第一回目の舞台は、山形県唯一の水族館であり、“世界一のクラゲ水族館”として名高い鶴岡市立加茂水族館です。

先日発表されたトリップアドバイザーの「旅好きが選ぶ!日本人に人気の動物園・水族館ランキング2020」でも全国8位、水族館としては全国2位にランクイン、年間来場者数は50万人を超える、まさに言わずと知れた庄内を代表する観光スポット。
しかし、加茂水族館が今日のように国内外から旅行客が集う場所となるまでには、多くの方々の努力と支えがあったのです。その一つが、加茂水族館ボランティアガイド「岩ゆり」の存在でした。

2000年に発足した「岩ゆり」は、有志により構成された加茂水族館の公式ボランティアガイド。主に団体客を対象にした館内のご案内や、冬季限定で行われる「バックヤードツアー」 の引率等を行っています*。地元の方々メインで構成されているため、クラゲについての解説はもちろんのこと、水族館と関る地域の海、漁、自然、文化等も一緒に説明することができます。

今回は、ガイドの一人であり「岩ゆり」の現会長を務める、石名坂績(いしなざか・いさお)氏にお話を伺いました。

*2020年9月現在、コロナウイルス感染防止対策のため活動休止中。

加茂水族館を支える!ボランティアガイド「岩ゆり」とは

1964年の旧館開館以降、1967年には年間来場者数が約21万人を突破するなど順調に成長を続けていた加茂水族館。しかし、その後幾度となく経営危機に見舞われ、バブル崩壊後の1997年には来場者はついに約9万人にまで落ち込む。頭を悩ませていた当時の館長・村上龍男氏(現名誉館長)が藁にもすがる思いで考えついたのが、"ボランティアガイドによるおもてなし"だった。

様々な方への働きかけを経て2000年1月その構想が実現し、有志のボランティアによるガイドの会が発足。加茂水族館に隣接する海の岩場に生えているオレンジ色のゆりの花から取り、「岩ゆり」と名付けられた。

「岩ゆり」によるガイド料はなんと“無料”。当時クラゲの展示に力を入れていた加茂水族館はこの年クラゲの展示数が日本一となり徐々に客足が戻るなか、個性豊かな「岩ゆり」のメンバーによるガイドが人気を後押ししていった。

石名坂氏と加茂水族館の出会い

宮城県出身の石名坂氏は、山形県の教員採用試験に合格したことをきっかけに山形県加茂中学校(現在は廃校)に赴任。以降、加茂町(現鶴岡市加茂地区)に暮らしはじめた。

2004年に59歳で教員の職を辞したのち、水族館の入り口に蘭などの山野草を飾って世話をするボランティアを始めたことがきっかけで加茂水族館に携わるように。当初は特にガイドをするつもりはなかったものの、水族館に出入りするうちに、会員の高齢化に伴い縮小の一途を辿る「岩ゆり」の姿を目の当たりにする。ほぼ1人で活動をしていた当時の会長が病気を患ったことを知り、何とか力になりたいという想いでガイドとしての活動をスタートしたという。

「クラゲマイスター」制度の開始と度重なる人手不足

何度か新たにボランティアガイドを募集するも、一向にメンバー集まらない…。ボランティアガイドもこれまでかと思った矢先の2010年、山形大学理学部が「クラゲマイスター制度」を開始。県内のみならず全国からクラゲ好きの若者たちが集まり、資格を取得していった。次第にその方々がガイドも担うようになり、中にはクラゲを自ら捕まえて送ってくれる方も。クラゲが大好きな彼等の解説が好評となり、「岩ゆり」の活動も再び活気を取り戻していった。

しかし、順調に見えたクラゲマイスターとのコラボにも新たな問題が。彼等は全国各地から集まっていたため、ガイドをするために加茂水族館を頻繁に訪れることが次第に難しくなっていったのである。

再び活動の継続が困難になる中、石名坂氏のツテで地元の方に地道に声をかけ、5〜6人の方が協力をしてくれることに。地元の方であるため空き時間にすぐ来てくれるようになり、徐々に“毎日誰かしらはガイドがいる”という体制が整っていった。

更なる体制強化への挑戦

紆余曲折を経て、現在「岩ゆり」の会員はクラゲマイスターを含め約30名にまで成長。日に4〜5人はガイドが常駐する体制が整い、団体にも対応できるようになった。
しかし、より多くのお客様に喜んでいただくためには、更なる会員増は必要不可欠。そこで昨年度からそのための仕組みづくりとして、石名坂氏自らも企画に携わり「ボランティアガイド体験講座」をスタートさせた。

こちらの講座は2日間の座学を受講して会員資格を取得したのち、一定期間実地研修を行うとボランティアガイドとして登録されるという流れで、より実践的にガイドとしての知識を身につけられる内容となっている。石名坂氏が中心になってテキストを作成した上で講師を務めるほか、ゲストとして奥泉現館長らも登壇。昨年開催時は高校生からお年を召された方まで10名以上が講座を受講し、最終的に5名がボランティアガイドとして登録されたという。残念ながら今年度はコロナウイルスの影響で開催を見合わせているが、石名坂氏は今後に向け養成講座を通じた更なる体制強化へ意欲を見せる。

「好き」を原動力に

ボランティアガイドとして活動する上でのやりがいを尋ねると、石名坂氏はこう答えた。
「“説明を聞かなかったら何もわからなかった、聞けてよかった”と言っていただくことは、ガイドとしては当然と言えば当然だと思う。それ以上に、帰り際少し離れたところなどで、お客さまが“すごかったね”“今度は孫を連れて来よう”などと話している声が直接耳に入ってくるのが一番嬉しいし、誇らしい。」

今や全国でもトップクラスの人気水族館に成長した加茂水族館。ガイドとしてその人気の一助になれているという事実が、石名坂氏がここまでボランティア活動に取り組む原動力の一つであることは間違いない。しかしそれ以上に、石名坂氏自身が加茂水族館の“一ファン”であり、より多くの人に加茂水族館を好きになってもらいたいという気持ちに突き動かされているからこそ、活動を続けているのだろう。ボランティア活動を継続する上で、人員の確保というのはどの活動でも頭を抱える問題である。しかし案外、それを解決するのは使命感や社会的意義ではなく、シンプルに「好き」という気持ちなのかもしれない、と思わせる言葉だった。

当面の目標は、より安定したボランティアガイド体制の確立。「来たお客様に喜んでいただけるようにガイドをして、今後も絶やすことなく加茂水族館を盛り上げていきたい。」
石名坂氏と「岩ゆり」の挑戦は、まだまだ続く。


【施設情報】
施設名:鶴岡市立加茂水族館
住所:〒997-1206 山形県鶴岡市今泉字大久保657-1
アクセス:庄内空港より車で約20分、JR鶴岡駅より車で約30分
JR鶴岡駅より庄内交通路線バス 湯野浜温泉行き(加茂経由)約39分
電話:0235-33-3036
駐車場:あり
駐車料金:無料
営業時間:通常 9:00~17:00(最終入館:閉館30分前まで)
定休日:年中無休
入館料(抜粋):※2020年9月時点
一般 1,000円(個人)/900円(団体)
小・中学生 500円(個人)/450円(団体)
幼児 無料


【ボランティアガイドについて(2020年9月現在活動休止中のため要問い合わせ)】
ガイド料:無料
申し込み方法:要事前予約。基本は団体のみ受付だが、家族等小グループも相談可能。
詳しくは上記加茂水族館の電話番号までお問い合わせください。

<ライター紹介>

地元ライター:國本 美鈴(くにもと みすず)
埼玉県深谷市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、都内の情報・通信系企業にて新規事業立ち上げやメディアの編成・PR等を担当したのち、2019年7月〜庄内に移住。現在、庄内町地域起こし協力隊観光PR担当として、イベントの企画やSNS等を活用した地域の情報発信などを行うほか、北庄内地域通訳案内士の資格も持つ。これまで訪問した国は45カ国という大の旅好き。庄内の魅力を県内外、そして海外の人にも発信すべく奮闘中!

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